2016年 10月 07日
「作品に依って生きる」ことを選ぶというのは、すごい生き方だろうなと 思う。くじ引きのような結婚なんて、と一人でおり、自立するために書道教室をはじめ 戦中の大変な時も、戦後の苦しさも乗り越え、ほとんど海外渡航者のいなかった時代に ニューヨークで個展を開いた。でも、この人の凄さは其処ではない。 同じことを続けていく情熱と、それを持続させていくための自己運用の能力がこの人を 特別にしているのだなあ、というのが本の感想だ。 篠田桃紅の展覧会に行ってきた。 ドキュメンタリーに出演したことや著書が10万部突破したことで、作品よりも人物や著書を 先に知った人も多いようだ。展覧会場には「百歳の力」が山積みに置かれていた。 2005年にオープンした高級ホテル・コンラッド東京の作品(壁画)で近年も注目される作風は 墨の多様な表情を生かした線の作品、書の作品両方あったがどちらも観ているときれい、というよりは快い、気持ちよいという感覚をもつ。漢字圏の国の人がもつ「字を見る」という快さ余白の美しさ、と抽象画の自由さが一体となった新しいアートという感じで、とても新しく感じる。 線の美しさ、間合いのよさ、ほんの寸分の加減のようなものは、著書のなかにも漂っている。 ゆっくりと呼吸をするように読ませる言葉 墨の線は、私のこころのあとだという、作品に込められた思い。つくることとは続けること。 ものを作る人の心に沁みる言葉がたくさんちりばめられていた。 本の内容はそんなに厚くはないけれど、篠田桃紅の呼吸を感じるボリュームとしては適正なのかも しれない。 展覧会ではアトリエの写真も展示されていたのだが、インテリアがとにかく素敵。温かみのある民芸的なファブリックに趣のある唐紙、座り心地のよさそうなソファがあって、そこに昭和感はみじんもない。感性の老けない人って本当にいるのですね。 30代の私でさえ、時々90年代感を漂わす瞬間があるのに、だ。 本当に、この人はすごい。
by primenumber2
| 2016-10-07 20:37
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